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多世代の福祉ニーズに応える ふくしの生協
2015-06-25

《高齢協で働く》ということ

(副理事長 岡安喜三郎)

一.協同組合で働くこと、それは働く一人ひとりが地域と結ぶこと

【協同組合は「人間は平等なのだ」と思う地域住民たちが主体の事業体です】
東京高齢協は生協であり、協同組合です。株式会社の営利目的と違い、協同組合の最も大きな特徴は、人間は平等であると考え、地域や生活を良くしようとする住民・市民たちが地域で自ら出資して事業を立ち上げて協同運営し、その事業成果を出すことにあります。
協同組合で働くとは、地域の誰の何のニーズや願いを実現しようとしているかの不断の問いが出発点ですし、結局は生命線です。少なくとも、平等を阻害するような地域や社会の諸矛盾から目を背けることは協同組合の理念から外れてしまいます。

【協同組合は世界中にあり、各々が自立し連帯しています】
このような協同組合は、国際協同組合同盟(略称「ICA」)を結成しています。ICAは世界最大の非政府組織で、世界九十四カ国にあり、約十億人が組合員となっています。
一つひとつの協同組合が地域に根ざした当事者主体の自立した事業体であり、しかもそれらが地域や一国、世界で連帯しているという特徴から、国際連合(国連)は、世界の飢餓・貧困撲滅のための有力な主体者として協同組合に期待しています。東京高齢協も連合会組織を通じてICAにつながっています。

【協同組合には国際的に認められた運営原則があります】
ICAでは、近代協同組合の発祥と言われるイギリス・ロッチデール(成立一八四四年)の伝統を受け継いだ協同組合の運営原則を決めています。協同組合が協同組合として存在するためのものです。
内容は、①自発的で開かれた組合員制、②組合員による民主的統制、③組合員の経済的参加、④自治と自立、⑤教育・研修と情報、⑥協同組合間協同、⑦地域社会への関与の七つです。一般会社のようなカネと権限で駆動する組織ではないようにするために庶民の叡智で作り上げたものと言えます。

【世界には高齢協の事業性格に近い社会的協同組合があります】
イタリアに「社会的協同組合」というものがあります。一九七〇年代に拘束的な精神病院の存在に対し「自由こそ治療」の合言葉で、その廃止を訴えたのが始まりです。
当事者と支援者たちは一緒に地域で生きる糧を得るために事業体に協同組合方式を採用し、一九九一年に法を制定し、いまでは高齢者や、生きにくさを持つ年少者をも対象にして、一万以上の組合数、働く人三十万人となっています。一つひとつの組合は利用する人、働く人、ボランティア、さらには会社や自治体などの関係者が組合員になることができるよう、多元的組合員制度(マルチステークホルダーシステム)が法律になっています。

【事業所や働く一人ひとりが地域とつながることが大切です】
高齢協の介護事業等の性格はこの社会的協同組合の事業と似ています。ただ法律上は生協ですから消費生活者の協同組合です。しかし事業の充実のためには、利用者やその家族、地域の人たち、行政とのコミュニケーションが大切なことは言うまでもありません。
日本の法律ではイタリアみたいな組合員構成はできませんが、さまざまな運営方法で事業所での工夫は可能です。例えば「利用者懇談会」は既存の生協の伝統的な手法で、それに現場で働く人たちも参加する仕組みです。

二.協同組合の経営はみんなで考え、話し合い、行動すること

【「協同組合経営の深刻な弱点とは」という指摘があります】
いまから三十五年前、一九八〇年のICA総会で協同組合の強みと弱みを報告した人がいます。
その人、レイドロー博士は「協同組合事業の最も深刻な弱点は、協同組合における雇用者と従業員との関係である。(それは)一般的な私企業の雇用者と従業員の関係と、協同組合のそれとに何ら違いがないところにある」と指摘していました(「雇用者としての協同組合」より)。これは理事者や管理者(法律上は「使用者」に相当する)のあり方を問うとともに、働き方にも問いを発しています。

【「企業戦士」ではなく、市民のまま事業に従事する】
いまから二十五年前、バブル経済の最終盤、ある栄養剤の宣伝に「二十四時間、戦えますか」というのがありました。企業で働くものは「戦士」でした。
そもそも、近代経営組織(ライン・スタッフ論)の原型はプロイセンの軍隊組織にヒントを得たとも言われます。軍隊では上官の命令に逆らうことはあり得ません。反したら懲罰が待っています。 それをなぞった企業では、自ずと指示待ち人間が生まれます。レイドロー博士はそのことを指摘したのです。
協同組合の特性は、市民(住民)が市民(住民)のまま事業を行うことにあります。働く人も当然同じことが言えます。ここに特長と強みがあるのではないでしょうか。

【大切なことは自由・平等と自治、そして連帯です】
社会のあり方として最も基本的な理念は、メンバー(市民)の「相互の対等性(自由・平等)の尊重と共同で行う規範の定立(自治)」(大村敦志)から始まると言われます。
もちろん、非営利組織においても同様で、協同組合においては、組合員同士、協同組合と組合員との関係の出発点です。このような組織なら、全体方針も働く人を含めてみんなの手で作り上げることに優位性が生まれるわけです。
現場で働いている人は利用者の機微が分かるのですから、きちんと方針に反映する運営が重要です。協同組合の運動では、連帯を強調しています。それは連帯なき自立は孤立にすぎないし、冒頭の協同組合の理念の放棄につながるからです。

【自治には民主主義が結局は大事ですが、その要件は?】
民主主義を、単純な多数派支配の原理と言い切ったり、意見が通らないと「民主的でない」と吐き捨てたり、これを結構都合よく使う面があります。それだと結局民主主義は育たないと思います。
有名なダールというアメリカの政治学者は、ある結社(組織)に政治的平等(構成員の権利の平等性)が必要な条件だとの合意があるなら、理念型として断った上で、この民主主義の要件は有効に機能すると言っています。
①メンバーが決定に参加する平等の機会を実際に持っていること
②メンバーの投票が同じ重みを持っていること
③問題となっている方針とそれから生じる帰結について、メンバーが理解できる必要なあらゆる情報を得る十分な機会が与えられていること。
④メンバーが討議案件について、最終チェックができる条件にあること。
⑤(国家の場合にはあらゆる成人に以上四点が等しく認められること)
事業所運営や、理事会・総代会において実際上はかなりの困難を伴いますが、だからと言って一つでも放棄すれば、何のための協同組合か、元の木阿弥です。

三. 法や定款を遵守し、創造的な運営で高齢協の発展を

【定款は常に読めるところに備え置きます】

高齢協は他の社団法人と同様に定款を定めています。いわば厳かな会則です。定款は就業規則とは異なり、働く人たちを律するのではなく、生協法や各種法律のもと、組合員の運営参加の権利と義務、役員選び方に加えて、役員の行動を律する規定がさまざま書かれています。
役員の行動はさまざまな利害関係者(ステークホルダー)に影響、時には損害をも与えますので、役員の行動が法や定款に沿ったものか否かは重要なチェックポイントです。東京都もそれを随時監査します。
ところで、自分たちの定款は他人は公開してくれません。定款は常に組合員や債権者が読めるところに置くというのはこういうことによるものです。

【働く人の運営参加でよりよい高齢協事業を】

協同組合は広く仲間同士で助け合う相互扶助の事業組織として認められています。
個々の協同組合は誰が組合員なのか、なれるのかで性格が決まります。それは、組合員以外の利用の制限条項(生協法第十二条)と、組合員の資格規定によって担保されます。具体的に東京高齢協の定款を読むと、その第四条と第六条に組合員には東京都民ならなれるとか、東京で働いていれば理事会に加入申請できると書かれています。ですから、都民はもちろん、近県の住所でも東京高齢協で働く人は組合員になれます。
働いている人は、積極的に組合員になることによって高齢協の経営に意見を述べて、よりよい事業の発展に参加して欲しいと思います。

四.協同組合の価値について

【協同組合は関わる誰でも主体者にすることで強みが出ます】

私個人は協同組合というもので仕事をして四十数年経ちます。
協同組合は、他の企業と同様、仕入先や利用してくれる人たち、働く人、ボランティアなどさまざまな人たちとの関係で成り立っています。
このような人たちが主体者となって協同組合に関わることが協同組合の強みを発揮する力になります。誰かが誰かを支配するという上下関係ではありません。
ここに協同組合の価値が生まれると実感しています。これは明らかに「資本の論理優先」ではない、「人間優先、人間は平等と考える」人たちの集団だったわけです。

【人間関係に大切なことが協同組合の価値でもあります】

ICA(国際協同組合同盟)は、協同組合のアイデンティティの喪失に危機感を持ち、八〇年代後半から九〇年半ばにかけて協同組合の価値の検討を進めました。人々は協同組合の何に価値を感じて参加するのかの問いです。
全世界的な討議の末、一九九五年のマンチェスター大会で、協同組合の価値(自助、自己責任、民主、平等、公正、連帯)と、倫理的価値(正直、公開性、社会的責任、他人への配慮)としてまとめ上げました。
結局は人と人との関係において大切なものが、協同組合の価値としてなったと思います。

【さまざまな人たちが関わる高齢協づくりで活力ある地域を】

東京高齢協の中では、利用者とともに働く人も組合員となって運営をし、さらには事業活動とはある程度独立してかつ協同しながら進めている地域・文化活動があります。
実態的には利用者と地域文化活動家、そしてワーカーズのハイブリッドな協同組合(「多元的組合員制度」の一種)と説明しうる協同組合です。
働く人も幅広い年代の人たちです。地域創生においても多世代交流は重要なキーワードになっています。この複合的な特徴を生かして、活力ある地域づくりに資する高齢協へとさらに進めたいものです。

五. (補)協同労働という働き方

【労働とは何なのだろうか】

私たちは、労働を通じて、人間は人間らしく成長・発達できると素直に思えるでしょうか。「労働とはそういうものではない。生活するための苦役の一種なのだ」「所詮疎外だ」と達観する人も多いかも知れません。百歩譲ってそうだとしても、それは職があった時代、年金に期待できた時代の話、私たちは「誰かに雇ってもらわなければ生活できない」という仕組みに翻弄される今を知ってしまいました。今は、多くの人が雇用労働ではまともな労働から外され、非正規労働による雇用、労働者を消耗品扱いとする「雇い方」がはびこっています。経営とは事業目的遂行のためにヒト、モノ、カネを効果的に活用・管理することと言われてきました。本当にそうでしょうか?特にヒトについて。協同労働はこれに異論を提示しました。

【新しい働き方としての協同労働】

働く一人ひとりが主人公となる事業体をつくり、生活と地域の必要・困難を、働くことにつなげ、みんなで出資し、民主的に経営し、責任を分かち合う、そういう新しい働き方に地域や行政の関心が集まってきています。「協同労働」という世界です。協同労働は今世紀入り口から、ワーカーズの働き方として実践的にも理論的にも発展させてきたものです。ですからワーカーズ・コープは別名「協同労働の協同組合」として広く認知を得てきています。高齢協の全国連合会(日本高齢者生活協同組合)発行の冊子『高齢者生協での働くみなさんへ ともに手を取り合って、地域の中で』においても協同労働に言及しています。

【規律をもった協同労働】

協同労働は雇用労働に対比されますが、しかし単なる「非雇用」労働ではありません。事業体内では協同労働はその名の通り協同する複数人による組織労働であって、そこで働く労働者同士の「対等と自治」(市民原理)が働く場に浸透することによって協同労働の基盤が成り立っています。具体的には、徹底した話し合いやリーダーの選出は必須であり、そのリーダーの指揮下にどういう範囲で入るのかは、それこそ自治の仕組みそのものです。

【生活と地域を変える協同労働】

冒頭にも述べたように、協同組合で働くということは働く一人ひとりが地域と結ぶことに基本的な特徴があります。協同労働では、その結び付きを人と人との直接の協同というつながりで実現しようとします。労働者側からの目から見ると具体的には、労働者同士の協同、利用者との協同、地域との協同となります。しかし、冒頭ではもうひとつ、地域住民が主体の事業体であると述べました。その主体の中から具体的に事業に就労する(働く)人たちが中心となる協同組合です。けっして「働く人を雇って起業する事業体」ではありません。これは生活と地域を変えようとする地域の当事者主体の協同起業と言えます。

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