10月7日、いつも通り9時半に91歳Sさん(女性)宅到着。
なんと、冥土の土産にパレードを見に行きたい、とおっしゃる! 普段の外出は大体通院かデパートなど日に寄って異なるが何十万人もの人が集まるパレードに行きたいとは!
急な事でびっくりしたが断る理由はないので、申し訳なさそうに私の答えを待つSさんに「わかりました。行きましょう。」と元気よく答える。
そんな人混みの中で大丈夫かしらと、実は内心不安でいっぱいだが命だけは守ろうと固く決意して出かける。
地下鉄を乗り継いで銀座駅へ。高齢のため歩く速度はかなりゆっくりである。中央付近の出口が全て封鎖されているため、かなり迂回して10時40分銀座三越前に到着。
すでに車は通行止めになっており、辺りは人・人・人・おまわりさん。だが、天気もいいし皆明るい顔でのどかにのんびり移動しているので、恐怖感はない。
四丁目交差点の三越と旧日産ビルの間のど真ん中に陣取ってパレードを待つ。「来たらなんて言おうかしら・・・?」とそわそわしている。耳も遠いので私が大きな声で見物客の状況などを説明していると、周りの人達がやさしくいろいろ教えてくれる。
高齢の男性がワンセグを見ながらもうすぐだよと教えてくれたり、中年女性がもっとこっちがいいんじゃない?と場所を譲ってくれたり・・・。
そのうちTBSですけどと記者とカメラマンが近づいてきてインタビューされたり。大正生まれのおばあちゃんはやはり人気者だ。
「来た来た!来ましたよ!」左側、新橋方面から赤い車が見えてきた。先ずは車椅子ラグビー。「おめでとう~」「ありがとう~」小柄なSさんは上を見上げて大きな声で叫びながら手を振っている。体操・柔道・卓球・レスリング・ボッチャ・陸上・・・etc、車上の選手たちが次々に手を振って通っていく。

「愛ちゃんは見えないけど佳純ちゃんがいます。体操の白井もいます。伊調だ。」「あ、柔道の松本が野獣のポーズしています。」など私も大忙し。そのたびにSさんは手を振り、大きな声で選手たちをねぎらっている。
メダリスト80人以上と聞いていたがあっという間に車四・五台で通り過ぎて行き、辺りは興奮冷めやらぬ大観衆がボンヤリと笑顔で立っている。Sさんも笑顔だ。もみくちゃになる事もなく不思議なくらい穏やかな空気が流れている。歩き出すとまたTBSが来て感想を聞かれる。

終わって帰る道すがら「テレビの人に冥土の土産なんて言わなきゃよかった。がんばった選手の皆さんに一言お礼が言いたくてって言えばよかった・・・。」「初めての事でとっさに気の利いたことが言えなくて、あたしったらやだわぁ・・・。」とあれこれ悔やんでいる。
それでも、ゆっくりゆっくり歩きながら「ああ、よかった。来てよかった。本当によかった。楽しかった。ありがとう、ありがとう。」と家に着くまで何度も何度も言ってくれた。

あとで聞いたらあの日の人出は80万人!その中に大正生まれの人が何人いたでしょう?
満足そうなSさんの表情を見て、行ってよかったと心から思い、ヘルパー冥利に尽きる一日でした。
平成28年11月3日

江東さざんか 立山礼子